本学は三重県の協力の下「三重のサステナブル経営アワード」受賞企業の皆様に特別講義を行っていただいています.
今回は伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社様にご登壇いただきました.
同社は三重県鳥羽市の鳥羽国際ホテル,潮路亭,三重県志摩市のNEMU RESORTを運営されています.2007年に三井不動産グループ様の一員となられました.2017年には2つの運営会社の株式会社鳥羽国際ホテルと,株式会社合歓の郷が合併され,伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社様が設立されました.
今回は,同社の取締役総支配人である惣明福徳様にご講演いただきました.惣明様は株式会社広島全日空ホテルにて料飲,企画,人事といった多部門を経験された後,2011年にはANAクラウンプラザホテル金沢の副総支配人を務められました.2017年に伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社様にご入社されました.販売部長,総括支配人を経て2019年より現職に就かれています.石川県観光特使や三重県ブランド認定委員も務められています.
1.ホテル・リゾート事業の3類型
同社は三井不動産グループ様の中で「ホテル・リゾート事業」に携わられています.三井不動産様は,なんと東京ドームを買収されたそうです.
ホテル・リゾート事業は大きく「都市型/リゾート型」と「宿泊主体型/フルサービス型」の軸に分類できるそうです.たとえば34施設を擁する三井ガーデンホテルズは都市型かつ宿泊主体型,ザ・リッツカールトン東京は都市型かつフルサービス型に位置するそうです.
一方,鳥羽国際ホテルやNUMU REORT(東京ドーム約61個分の広さだそう),NUMU REORTの敷地内にあるAMANEMU※は,リゾート型かつフルサービス型に分類できるそうです.
※ アマンという世界的なグループとの合弁のコテージ
ショッピングセンターにも同様に「都市型」と「郊外型」がありますね.後者は周りに何もないような広大な敷地内に建てられるため,その施設単体で全てのサービスを用意する必要があるという意味で「フルサービス型」といえるかもしれません.
2.SDGsの取り組み
同社は環境への配慮・脱炭素のための「脱プラスチックに向けた取り組み」を行われています.たとえば清掃やアメニティ交換を不要とする連泊のお客様に対して,それらのサービス料に相当する2,000円をお渡ししているのだそう.宿泊料といったお客様側が負担するコストは「顧客コスト」と呼ばれますが,顧客コストが目に見える形でキャッシュバックされる構図です.
また清掃のための水が不要となるため,水資源の保護につながるそうです.
NEMU RESORTでは客室のペットボトルを廃止し,各階にウォーターサーバを設置されました.オリジナルのマグボトルも作成され(とんでもなくお洒落)年間3万本のペットボトルの削減を実現されました.
なるほど.そのため今日の配布資料のファイルも紙なのですね.
写真中央:同社オリジナルのマグボトル
さらに同社は,従業員満足度の向上のための「社内提案制度」を実施されています.これは「従業員が満足しないとお客様も満足できない」という総支配人の惣明様のお考えに基づくものです(筆で書いて飾りたい名言).
社内提案制度は直接,惣明様に従業員満足度や顧客満足度,新商品の開発といった様々な分野の提案ができる制度です.年間100件ほどの提案の内,約30~40%が採用され,採用された提案は半年に1回表彰されます.
3.経営の持続可能性の向上
同社はホテル事業だけでなく,外販商品でも大きな成果を上げています.これは感染不安が強く,外に出られない時期に「おとりよせ」が流行したことが関係しているそうで,外販商品の売上だけで年間,約2億円を達成されました.なんと1か月で1年間の受注量が入ったそうです.
そのときホテルは1か月半ほど休業されたそうですが,こうした外販商品のおかげで組織全体の経営を成り立たせることができたそうです.こうした経験から,外販商品の他にも様々な部門を強化し,外部環境の変化などに備えているそうです.
現代の日本市場では,高品質の商品やサービスならば,相応の価格で販売できる市場になっていると惣明様はおっしゃいます.たとえばマクドナルドのセットは500円を超えるものが多くあり,昔よりも価格が上がっていますが,現代はこうしたことが当たり前の時代になってきたそうです.これは価値の高い商品やサービスであれば,それに見合う価格で売っても良い時代になってきたということだそうです.たしかに現代では「プレミアム」を冠した高価格の商品が,幅広い層に受容されています.
世界の国々がこうした価格上昇を,従業員の賃上げといった世の中の好循環につなげていこうとする中,日本だけが「安かろう,良かろう」の精神で良い商品を安く売ろうとしていたそうです.ですが現代では日本も良い商品を高く売ることに目覚めていったと仰います.
同社もお料理や宿泊の料金を上げられましたが,お客様は正しく評価し,受け入れられたそうです.こうした価格向上は利益幅を増やします.
2023年度には,ホテル・リゾート事業の過去最高の収益を達成されました.
同社はこの収益を,従業員の方々のために活用されました.具体的には基本給の引き上げや賞与に回されたそうです.さらには従業員の士気向上のための研修費用や,従業員寮の改修に収益を使われたそうです.
人材ではなく「人財」.利益をいかに分配していくか.
惣明様のご講演から,お客様だけでなく従業員の方々にも心を配り,日々おもてなしの精神を忘れない姿勢が大切であることを学びました.
文責:川崎 綾子(特任准教授)